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【肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠】

  • 株式会社 SALES AGENCY
  • 2023年11月30日
  • 読了時間: 5分

肛門の機能を評価する検査としては、問診、身体検査、マノメトリー検査、デフェコグラフィー検査および陰部神経検査があります。


古くは、問診と身体検査だけで肛門の機能異常を診断していました。もちろん、現在でも、それが基本です。また、ちまたの肛門科でそれさえ守られていないことをうかがわせる患者さん方が、私の外来にたくさん来ていますので、あなた方には、口をすっぱくして、検査のリスクもお金もかからない、問診と身体検査の重要性を強調したいと思いますね。


とはいえ、現在ではそれらに加えマノメトリー検査とデフェコグラフィー検査が一般化してきた。(実は、一般化しているというのはうそで、教科書に載るのが一般的になったということで、これらの検査を実際日常的に行っている施設はかなり限られた施設です)


マノメトリー検査とは、肛門機能のうち、肛門管によって形成される内圧を図る検査です。基本的には、力を込めないで楽にしているときの「安静時肛門内圧」と肛門を閉めているときの「収縮圧」、そして、内圧が形成される肛門管の長さ、つまり、「生理的肛門管長」を測定します。それらに、いくつかの特殊なものや、工夫を加えることをするわけですが、それは、ここでは述べません。複雑になって、結局、初期には検査の理解の邪魔になりますから。そういうことは、勉強のはじめにはよくあることですね。


さて、この内圧測定を基本としたマノメトリー検査ですが、よく、考えてください。


何を測定しているのでしょうか。私の答えてほしいこととは別の、通り一遍の教科書的な説明をしましょう。


「安静時の肛門内圧のデータは内肛門括約筋の異常の有無を示し、収縮圧の異常は外肛門括約筋の異常を示します。」


これは、肛門機能検査のドクマになっていますね。


実は、これさえも知らない、肛門科の医師を私はたくさん知っていますが、それは、それでお笑いの世界として、(にせ医者のような医者はよくいますからね。)これを知っているだけの肛門科の医者は、これまたとても多いのですね。それは仕方ありません。肛門機能検査をしている肛門科が、肛門科や大腸外科を掲げている一般診療所、病院、大学病院でどれほどあるか、実は非常に少数であるから、仕方がないのですが、これらを専門にしているものたちからみると、とてもお寒い状況なのですね。


それはさておき、少し、説明を進めましょう。


先ほどのドクマはある一定の範囲内では正しいのです。


しかし、実は、肛門の機能検査と内圧検査とは、同じものではないのですね。なぜ、肛門機能を、内圧を計ることで、評価しようとしたのだと思いますか。


肛門機能のすべてが、内圧を高めることだからですか。


こういう訊き方をすると、すぐ、この質問の答えは、否であることがあなた方にはわかりますね。すべてが、、、、という訊き方の場合は、たいてい否なのですね。


では、訊き方を変えましょう。


肛門機能の代表的なものは、内圧を高めることなのですか。


このような聞き方をして始めて、その内容を吟味しようとしはじめるのは、受験テクニックとなせる業ですね。でも、ここでは、それに踏み込みません。


よく、考えてみると、肛門機能を内圧で評価する、理由は、簡単に見つからないことに気がつきます。


確かに、便が漏れそうになるとき、括約筋に力を込めれば、内圧はあがるでしょう。でも、肛門は内圧を高めて、便を漏れにくくしているのでしょうか。


ここは、意見が分かれるとことかもしれませんが、内圧を高めることと、便をもれにくくすることは、同じことではないのです。ただ、括約筋の収縮によって、便を我慢するとき、副次的に、肛門の内圧も高まるような、形になっている、ということです。内圧の力で便を我慢しているわけではないということです。


では、なぜ、内圧で、肛門機能を評価するようになったか?


それは、簡単な理由があるのですね。


内圧しか、測定できなかったからです。そして、その内圧データが、肛門の臨床機能と許される範囲で、相関していたからですね。


内圧の低下は、肛門の障害の程度を示すと考えたほうがいいのですね。肛門のもっている、複雑な能力のシステム、いわば「肛門システム」というものの破壊度をしめす指標と考えたほうがいいのです。


ですから、内圧がさかれば、肛門システムが壊れていて、内圧が正常であれば肛門システムを正常であると。


しかし、これは、ある一定の範囲内でしか相関しないのです。 つまり、肛門でないものの比較や評価にはつかえないのです。肛門システムというものがなくなった後の、「肛門」や、その治療の指標には使えないということです。内圧の低下は、正常の肛門の機能低下を示しますが、正常の肛門でないものの、機能評価にはつかえないのす。


たとえば、痔ろうの手術で破壊された肛門の機能の比較や、その治療の評価。そして、肛門再建によって造られた肛門。


一度、学会で括約筋再建をした場合に、内圧はその臨床と相関しないと述べたとき、それを利用して、肛門を温存した手術後の肛門機能の悪さに対しても、内圧は無意味なので内圧の低下は肛門機能の低下を意味しないと、述べられた大学教授がいましたが、大きな間違いを犯しているのですね。それは、とりもなおさず、温存したと思っている肛門では、肛門システムが失われている、擬似肛門にしか過ぎないということなのですね。


本当は、温存した肛門の機能には、内圧検査が有効です。それは、手術によってどの程度「肛門システム」が破壊されているかの程度指標になるからです。一方、再建された括約筋による肛門機能の評価には、内圧はそのままでは使えません。なぜなら、肛門であって、肛門でないのですから、内圧は、排便機能と相関しないのです。本当は、別の指標が必要なのです。


一見似たようなものを測定しているつもりでも、その原理や歴史を知らないと、おかしな誤りに陥ってしまうことは、いろいろな場面であるのですね。


また、一般に、検査というものの限界として、それが有効な範囲というものがあることにも気をつけてください。


難しい話ですが、理解できましたか。理解できても、この範囲は、試験に出ません。国家試験に出ませんからね。なぜ、国家試験に出ないかということは、ここでは述べませんが、考えれば自明ですね。


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】

 
 
 

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