【診療の秘訣 ブラッドパッチEMR】
- 株式会社 SALES AGENCY
- 2023年11月30日
- 読了時間: 5分
大腸内視鏡検査で大腸のポリープを切除する場合、スネア・ポリペクトミーという方法がとられます。これは、キノコのようなポリープの場合に出来る方法です。
一方、腫瘍が大腸の壁にへばりつくような、広基性あるいは平坦型と呼ばれるような形の場合には、その粘膜下層に生理食塩水を注入することによって病変部粘膜を挙上させ、一種の隆起型腫瘍に似せてスネア・ポリペクトミーをする、いわゆるEMR〔endoscopic mucosal resection、内視鏡的粘膜切除術〕という方法が広く行なわれています。この方法は、スネアで電気凝固・絞やく切開するとき、粘膜下層に注入した生理食塩水が、一種のクッションの役割をして、それ以下の固有筋層と漿膜に電気熱障害が及ばないように働き、安全性も増すという利点もあります。
しかし、粘膜下層に注入された生理食塩水は急速に吸収されて、隆起はすぐにへこみ、平らに戻ってしまうのですね。まごまごしていてEMRができない人をよく見かけますよ。だれでも初級者のころは、このような経験をすることが多いし、上級者になっても結構あるのですね。大腸の中は、蠕動運動で動いていて、その蠕動がとまるのを待っている間に、ベストチャンスを逃すということがどうしてもあるのです。
その改善のために、高張食塩水や高張ブドウ糖液という浸透圧の高い液体が使用されることがあります。でも、浸透圧が高いということは、組織に障害性があるということなのですね。また、ヒアルロンサン液を注入することもあります。これもいい方法なのですが、しかし、これは高価なものなので日常の臨床で使うわけにはいきません。お金に糸目をつけない、バブルのことの医療ならいざ知らず、医療経済学的な感覚を身に着けなければいけない、これからの日本で診療をしていく君たちには、考えてもらわなければならないところですね。
そこで、私の開発した方法をお話しましょう。わたしは、患者自身の血液を粘膜下層に注入して粘膜を挙上させてEMRする、「ブラッドパッチEMR」という方法を開発しました。何度か医学雑誌で書いたり、新聞で取り上げられたりしましたから、知っている人もいるかもしれませんね。
まず、自己血液は、材料費が無料です。当たり前ですね。
次に、安全性に問題がありません。自分の血液ですから、それが、組織に漏れてもいわゆる内出血と同じことで、経験的に安全であることはわかっていますね。
さらに、大腸の粘膜下への注入により、長時間、粘膜の隆起を保ちます。どのくらい長時間化というと、想像してください。怪我をして、出血して腫れた場合、どのくらいで腫れが引けますか。とても長い時間ですね。大腸内視鏡の検査時間から考えれば、永遠に長いともいえます。
普通の穿刺針用いて穿刺しまず。23Gという太さのものを使っています。特別なものではありません。1症例に何回か使う場合には、生理食塩水で穿刺針内を通水しておけば、穿刺針内の凝血の問題もなく、何回でも使えます。血液が腸管腔内にこぼれても水で簡単に洗浄でき視野の確保の点でも負担がありません。この辺のことはよく、学会で質問されるのです。経験のない型は、この辺が不安なのでしょうね。
隆起した粘膜は、通常の高周波スネアで容易にEMRすることが可能です。それによって粘膜下層の血液は電気凝固されて、その凝血塊はEMRで切除された粘膜欠損部を覆います。それは、あたかも凝血塊が粘膜欠損部を出血や穿孔から守るように見えるのです。それに由来して、ブラッドパッチ(血液パッチ)EMRと命名しました。
現在までに、わたしは、この方法を日常の診療で用いていますが、合併症(早期および晩期の出血と穿孔)の経験は1例もありません。
また、この「ブラッドパッチEMR」は、単に粘膜の隆起時間を長時間化させる利点だけでないのですね。
「凝固血液の可塑性」を利用することにより、新たな発展型のEMRが可能だったのです。
直腸というのは大腸の中でも、粘膜下注入をしてもなかなか十分な粘膜隆起が得られにくい場所ですが、その直腸の場合などに、新たな発展型のEMRが可能だったのです。
自己血液を十分量粘膜下に注入した後、先端フードを用いた内視鏡で病変を含む粘膜をフード内に吸引します。その後、吸引を中止し、フード内から病変を含む粘膜をはずすと、病変の含む粘膜領域は、凝固血液の可塑性のため、あたかもプリンやゼリーが型を取られたように盛り上がったままになるのですね。これは、面白いことですよ。送気して管腔を拡張させても、その盛り上がりは崩れません。持続します。管腔内に十分なワーキングスペースを作ることが可能なのです。型どられて盛り上がった粘膜は、従来のスネアリングテクニックにて、病変を確認しながらEMRできます。これは、とても大きなアドバンテージですね。
これは、「ブラッドプディングEMR(血液プリンEMR)」と呼んでいる方法で、粘膜隆起が上手く得られにくい直腸が良い適応です。また、注入する自己血液の量と先端フードの大きさの工夫で、大きな腫瘍を簡単にEMRできる将来性のある方法でもあるのです。
以上のように、粘膜下層に血液を注入する、ブラッドパッチEMRは、他のEMRに較べて、多くの利点がある方法です。
このように、日常の臨床で大腸内視鏡の治療をより安全なものとするには、小さな工夫の積み重ねが大切なのです。
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